『 花火 』 高嶺清麿 ✕ 大海恵


「清麿、今日は花火大会の日なのだ」

「忙しいから却下だ」

「恵殿が行きたいと言っていたのだが、忙しいなら私が代わりに行くしかないかのう」

「それならそうと早く言え」

 珍しくガッシュもティオもいない恵とふたりきりの夜。河原に上がる花火の弾ける音。ふんわりと漂うナチュラルな甘い香り。いつもの長い髪はアップにしてまとめていて華やかに仕上がっていた。

 せっかくのお祭りだからアレンジしてきたと言っていた恵を目の前にして平静を装うことは不可能だった。身体の底から湧き上がる熱気は単なる夏の暑さのせいでないのは清麿にもなんとなく分かっている。うちわを仰いでもごまかしきれない妙な暑さを感じていた。

花火の音よりも心臓のほうが騒がしい。 

清麿くん花火全然見てないでしょ」

「正直にいうと、こういうときはどこを見るのが正解なのかなって考えてた」

「正解は?」

「恵さんを見ておいたほうがいい?」

智将、高嶺清麿。恋というものをまだあまり知らない。 

恵は笑っていた。ほどほどにね、と。


END


2024年8月25日 X(旧Twitter)掲載分