「 君のことが大好きだ 」十文字翼 ✕ 真宮桜


「もっともおれは……悪霊とわかっていても真宮さんの姿の霊を祓えなかった。祓い屋失格だな」

 十文字翼は少し落ち込んでいた。まさか今回の仕事の霊がこんなにも強敵だとは思っていなかったからだ。よりによって自分が愛する真宮桜に化けるなんて。いくら相手が霊だといっても十文字に祓えるはずがない。

 きっと桜もこんな自分に呆れているに違いない。十文字はそう思っていたが、桜は落ち込んでいる十文字に思いがけない言葉をかけてくれた。

「……そんな事ないよ、翼くん。なんかむしろ……嬉しかったかも……」

「真宮さん……!」

 てっきり桜に幻滅されたかと思いきや、逆に好印象を与えていたことに十文字は素直に喜んだ。その一方で恋のライバル、六道りんねは桜に化けた霊を浄霊する気満々だ。

 これは千載一遇のチャンスだ。六道がこのまま霊を浄霊してしまえば、恐らく桜は六道の無慈悲な行為に対して多少なりとも落ち込むだろう。そこで十文字が桜を慰めてあげれば、自分の株を上げることができるのではないかと邪なことを考えた。 

 弱みに付け入るようで若干の後ろめたさは感じたが、少しでも六道より優位に立ちたかった。

「ま、真宮さん!」

「なあに……翼くん……?」

心なしか少しショックを受けているように見えた。やはり桜は六道のことが好きなのだろうか。いや、今はそんなことはどうだっていい。落ち込む桜を励ますことができるのは十文字しかいない。

 十文字は桜の手を握り、力強く、自分の気持ちを正直に伝えた。

「真宮さん、おれは真宮さんのことが好きだ」

「翼くん……?どうしたの急に……?」

「真宮さん落ち込んでるみたいだったから、元気になるようなことでも言おうと思ってさ。あ、でもおれが好きだって言ったくらいで真宮さんは何とも思わないよね!」

初めての告白でさえ、桜は特に嬉しそうな表情はしていなかった。それもそのはず、桜は十文字のことをすっかり忘れていたのだから。今更また告白をしたところで桜が喜ぶはずがない。

 十文字はそっと桜の手を離そうとした。

「ありがとう、翼くん。翼くんのおかげでちょっと元気出たかも」

桜は十文字の手を握り返した。まさか、桜の方から手を繋ぎ止めてくれるなんて思ってもいなかったため、十文字は耳まで真っ赤になってしまった。

「翼くん、顔赤いよ?大丈夫?」

「う、うん!?だ、大丈夫だよ!?」

明らかに動揺している十文字に桜はくすっと笑った。少し恥ずかしいが、こんな間近で桜の笑顔が見れるなんて滅多にない。十文字は心のなかでひっそりガッツポーズを決めた。

「翼くんっていつもストレートだよね」

「えっ、い、嫌だったかい……?」

「ううん、その逆だよ。翼くんの言葉のおかげでよく救われてるんだよ、私」

「おれだって真宮さんに救われてるよ!真宮さんのその笑顔のためなら、おれは何十倍、いや何百倍だってがんばることができる!」

自然に桜の手を握る力が強くなる。十文字の言うことは嘘ではない。桜の笑顔には人を元気にさせる力がある。十文字は何度その笑顔に救われてきたことか。

「ありがとう、翼くん。すごく嬉しいよ」

「真宮さん……!」

「六道くんもこれくらい優しかったらなぁ」

「うっ……おのれ六道のやつ……」

またしても人の恋路を六道が邪魔をする。六道がいなければ十文字と桜は楽しいお付き合いをしていたかもしれない。奴とは一生恋のライバルとして戦うような気がする。


End


2017年11月20日 pixiv掲載分

2024年09月07日 一部修正しました